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18話 精鋭部隊を使い走りにする規格外の伝言

作者: みみっく
last update 公開日: 2026-01-03 06:00:51

 だが、腰に下げた紋入りの剣の感触が、少しだけ心を軽くした。この王国で冒険者としての証明を得て、国を救った功績も認められている。これまでの信頼があるのだから、理不尽なことにはならないはずだ。

「……今は、考えないでおこう」

 ユウヤは思考を切り替え、逸る気持ちを足に乗せて家へと急いだ。ギルドでの騒動と山での激闘を終え、全身にずっしりとした疲労感が染み渡っている。何よりも今は、あの温かい場所へ帰りたかった。

 玄関の扉を開け、リビングへと足を踏み入れる。

 パチパチと暖炉が爆ぜる音と共に、スパイスの効いた食欲をそそる夕食の匂いが鼻腔をくすぐった。視線を上げると、そこには今か今かと待ち構えていたミリアの姿があった。

「ユウヤ様……!」

 目が合った瞬間、ミリアは弾かれたように椅子から立ち上がり、駆け寄ってきた。彼女はそのままの勢いでユウヤの胸に飛び込み、折れそうなほど強く抱きしめる。

「もぉっ! 心配しました……酷いですっ! ギルドに行かれるとしか聞いていませんでしたよっ! しかも……伝言を、隠れて尾行をしていた隠密の方に頼むなんて……」

 ミリアはユウヤの胸に顔を埋めたまま、ぎゅっとその衣類を掴んで抗議の声を上げた。  主人が急にいなくなったと思えば、姿の見えない護衛の隠密が困惑した様子で現れ、「ユウヤ様から伝言です」と告げられたのだ。その状況を思い返したのか、ミリアの肩が微かに震え始める。

 彼女は顔を上げると、潤んだ瞳でユウヤを睨みつけたが、その口元は既に緩んでいた。

「……ふふっ。あの方たち、気配を消して守るのが仕事なのに、あっさりと見つけられて、あろうことかお使いまで頼まれるなんて……。戻ってきたとき、すごく複雑な顔をしていましたよ?」

 心配でたまらなかったはずなのに、ユウヤのあまりに規格外でマイペースな行動が、彼女の不安をおかしな笑いへと変えてしまったようだ。

「……あはは、やっぱり困らせちゃったかな。でも、一番早く確実に伝わると思ってさ」

 ユウヤが決まり悪そうに頬を掻くと、ミリアは溜息をつきながらも、心配していた表情から、次第に笑いを堪えているような表情になった。

「ん? ミリア? なに?」

「……う……ふふふ……もぉっ! 笑わせないでください!」

 ミリアはお腹を押さえるようにして、ついに堪えきれずに吹き出した。その様子を呆然と眺めるしかないユウヤをよそに、彼女は楽しげに肩を揺らす。

「え? なに?」

「……うっふふふ♪ お父様が昨日、尋ねてきた時にお話をしましたら……あのお父様が大笑いをしていましたわっ!」

 ミリアが鈴を転がすような声で笑う姿を見て、意味は分からないながらも、ユウヤの口元にも自然と笑みがこぼれた。つられて笑いながらも、彼は首を傾げる。

「意味が分からないって~、何が、おかしいんだよ?」

「だって……隠密部隊が監視対象の方から伝言を頼まれたのですよ? ユウヤ様にお付けしている隠密部隊の方達は帝国の隠密部隊でも精鋭部隊なのですよ? それを見つけて伝言を頼まれるなんて方は、過去にも居なかったとお父様が驚いていましたが、最後は感心して笑いながらお話しくださいましたわ」

 ミリアは目尻に溜まった涙を指で拭いながら、誇らしげに語った。

「それに、他の五人全員が、ユウヤ様に追いつけなかったと申し訳無さそうに報告に帰ってきましたわ」

「じゃあ……伝言は伝えてくれたんだね」

「はい。でもお帰りは大分時間が掛かるとお聞きしていましたわ」

 ミリアは少しだけ目を伏せ、暖炉の明かりに照らされたユウヤの顔を見つめた。あの険しい山を越え、異常な数の魔物を相手にして、今日中に戻ってこられるとは誰も思っていなかったのだ。

「ミリアが心配すると思って、急いで帰ってきたんじゃん」

 ユウヤが照れくさそうに、けれど真っ直ぐにそう告げると、ミリアの瞳が大きく見開かれた。

「わぁっ♡ ありがとうございます」

 ミリアは頬を薔薇色に染め、幸せを噛みしめるように両手を胸の前で合わせた。先ほどまでの笑い声は止み、リビングには温かく、どこか甘い沈黙が流れる。

 彼女は慈しむような眼差しをユウヤに向けると、そっとその手を取った。

 そうだ……ミリアにもプレゼントしなきゃな。ミリアにも、あの透き通った青色がよく似合うはずだ。ネックレスやブローチもいいけれど……彼女がいつも身に付けている護身用のナイフを強化するのが一番いいかもしれない。

「討伐して手に入れた魔石があるんだけどさ、ミリアのナイフに付けたいんだけど良いかな?」

「あ……は、はい……」

 ミリアは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに腰の鞘から愛用のナイフを取り出し、両手で恭しく差し出してくれた。

「この宝石は取っちゃって良いかな……」

「はい。構いませんわ。ユウヤ様がそうおっしゃるなら、喜んで」

 ユウヤはナイフを受け取ると、スキルを流し込む。一瞬の光と共に、元々埋め込まれていた宝石を傷つけることなく分離させると、代わりにあのブルードラゴンの魔石を取り出した。

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